日本縦断ステージ3 Day5 伊予から臼杵へ――佐田岬を走り、海上国道197号で九州上陸
日本縦断ステージ3、Day5。今日は愛媛県伊予市から、最終的には大分県臼杵市まで。朝の時点では、八幡浜からフェリーで別府へ渡り、温泉にでも入って少しのんびりしようかと思っていた。ところが走っているうちに予定はどんどん変わり、佐田岬半島を先端近くまで走って三崎港へ、そこからフェリーで佐賀関へ渡り、さらに国道217号を南下して臼杵まで走ることになった。自転車での走行距離は124.76km、獲得標高875m。四国を走り切り、ついに九州へ上陸した一日である。

【ルート画像 挿入:スクリーンショット 2026-08-26 202216.png|Day5 愛媛県伊予市から佐田岬半島を経て大分県臼杵市へ。途中はフェリーで豊後水道を渡る】
昨夜の夕日、今朝の海
朝7時頃、宿のおじさんに見送られて出発した。昨日は宿の高台から見た夕焼けに感動したが、早朝の海もまた素晴らしかった。目の前には180度、穏やかな海と島々が広がっている。昨日の最後には10%を超える激坂を、ビールを買うために二度も登る羽目になったが、朝になってこの景色を見ると、それもまあいい思い出に思えてくる。

【写真① 挿入:IMG_6425.JPG|宿の前から望む早朝の瀬戸内海。前日の夕焼けとはまた違う、静かで澄んだ朝の海】
宿のおじさんが海の向こうを指さして、「あれがDASH島だよ」と教えてくれた。TOKIOのテレビ番組に登場する島だという。写真の中では、ひょうたんのような形をした島がそれらしい。自分一人なら気づかず通り過ぎていたはずで、こういう地元の人との何気ない会話も旅の面白さである。

【写真② 挿入:IMG_6424.JPG|宿のおじさんが「DASH島」と教えてくれた島を望む。早朝の瀬戸内海は静かだった】
今日も国道378号、海岸線を西へ
宿から例の激坂を今度は下り、昨日に引き続いて国道378号を西へ走る。朝なので涼しい。車も少ない。そして右側にはずっと海がある。昨日から何度「きれいだな」と思ったか分からないが、この日の朝もやっぱりきれいだった。

【写真③ 挿入:IMG_6438.JPG|朝の国道378号を西へ。昨日に続き、美しい海岸線を気持ちよく走る】
対岸には広島県側の島々が見える。昨日まで、あちら側の島を自転車で走っていたのだ。海を挟んで振り返ると、ずいぶん遠くまで来たような気がする。

【写真④ 挿入:IMG_6440.JPG|国道378号から対岸の島々を望む。海の向こうには昨日まで走っていた広島県側の景色】
肱川にかかる赤い跳ね橋
長浜町まで来ると、大きな肱川を渡る。その河口に、赤い橋が見えた。長浜大橋という橋で、船を通すために中央部が持ち上がる可動橋として知られている。自転車旅では、有名観光地を目指していなくても、こういう「なんだ、あれは?」というものに突然出会う。そのたびに止まって眺めるので、当然ながらなかなか先へ進まない。

【写真⑤ 挿入:IMG_6442.JPG|大洲市長浜町、肱川河口にかかる赤い長浜大橋。船を通すために開閉する珍しい橋】
長浜を過ぎても海岸線は続く。青い海と緑の山。その間を道路が縫うように延びている。この景色が続くなら、急いで走る必要もない。

【写真⑥ 挿入:IMG_6443(1).JPG|長浜を過ぎてさらに西へ。山と海の間を国道378号が続いていく】
そして海を覗き込むと、驚くほど水が透き通っている。岩の形までくっきり見える。海水浴場でも何でもない普通の海岸なのに、この透明度である。思わず自転車を止めて、しばらく見とれてしまった。

【写真⑦ 挿入:IMG_6445.JPG|国道378号沿いの海。水の透明度があまりに高く、岩場までくっきり見えて思わず足を止めた】
八幡浜で予定変更。佐田岬へ行ってみる
当初は八幡浜港からフェリーに乗り、別府へ渡るつもりだった。ところが八幡浜には思ったより早く着いた。このままフェリーに乗って別府でのんびりするのも悪くない。しかし地図を見ると、西へ細長く伸びる佐田岬半島の先に三崎港があり、そこから大分県佐賀関へフェリーが出ている。「せっかくなら、もう少し先まで行ってみるか」。予約もしていないし、少々チャレンジングではあるが、進路を佐田岬半島へ切り替えた。

【写真⑧ 挿入:IMG_6452.JPG|八幡浜から予定を変更し、佐田岬半島へ。高台から海と小さな港を見下ろしながら西へ進む】
佐田岬半島は、思ったより手強かった
ところが、佐田岬半島は甘くなかった。細長い半島だから海沿いを平坦に走れるのかと思ったら、アップダウンがかなりある。登る。下る。また登る。真夏の日差しの中でこれはなかなか効く。「素直に八幡浜からフェリーに乗ればよかったかな」と一瞬思わないでもない。しかし、登り切るたびに視界が開け、山の間に小さな集落や漁港、その向こうに青い海が現れる。これを見ると、また「来てよかった」と思ってしまう。

【写真⑨ 挿入:IMG_6453.JPG|佐田岬半島のアップダウン。登りはきついが、高台から谷あいの集落と海を見下ろす景色は素晴らしい】
さらに高度を上げると、海が大きく広がってきた。遠くには四国側の陸地や島影が重なって見える。佐田岬半島は海に突き出した細長い半島なので、高いところまで登ると左右に海を感じられる。この景色は、ここまで自転車で来なければなかなか味わえない。

【写真⑩ 挿入:IMG_6454.JPG|佐田岬半島の高台から広がる海。登りの疲れを忘れさせてくれる大展望】
半島の先端へ
かなり先まで来た。道路の左側には海、その先にはまだ緑の尾根が続いている。ここまで来ると「佐田岬半島を走っている」というより、「海の中へ突き出していく」ような感覚になってくる。アップダウンは相変わらずだが、もう引き返すという気にはならない。三崎港は近い。

【写真⑪ 挿入:IMG_6458.JPG|佐田岬半島の先端部へ。アップダウンを越えながら、海に突き出す半島をさらに西へ進む】
ようやく三崎港。しかし「夜10時まで乗れない」
昼前後、ようやく三崎港に到着した。八幡浜からここまで来れば、あとはフェリーに乗って九州へ渡るだけ。そう思っていた。ところが港に着いた途端、交通整理をしていたおじさんから「自転車は夜10時くらいまで乗れないよ」と言われた。ずっこけた。ここまで佐田岬半島を走ってきて、今さら八幡浜まで戻る体力など残っていない。

【写真⑫ 挿入:IMG_6461.JPG|佐田岬半島を走り切り、ようやく三崎港へ。ここから国道九四フェリーで大分県佐賀関を目指す】
念のためもう一度確認すると、自転車をそのまま車両扱いで載せる枠は厳しくても、輪行袋に入れて手荷物として持ち込めば乗れるという。助かった。輪行袋を持ってきていて本当によかった。結局、13時30分頃の便で佐賀関へ渡れることになった。八幡浜まで引き返す未来を一瞬想像しただけに、この時の安心感はかなり大きかった。

【写真⑬ 挿入:IMG_6459.JPG|三崎港で乗船待ち。輪行袋に入れれば自転車を持ち込めると分かり、ようやくひと安心】
今回の旅、数少ないごちそう
フェリーまで少し時間ができたので、港前の施設でしらす丼を買った。しらすがたっぷりのっている。この旅では、食事にあまりこだわらず、コンビニや牛丼、スーパーの寿司などで済ませることが多かったので、これが今回の旅で唯一と言ってもいいくらいの「ごちそう」である。佐田岬を走り切り、フェリーにも乗れると分かった後なので、なおさらうまかった。

【写真⑭ 挿入:IMG_6462.JPG|三崎港で食べたしらす丼。今回の旅では数少ない、土地らしい“ごちそう”】
海の上にも国道197号
三崎港から佐賀関へのフェリーには、ちょっと面白い話がある。四国側を走ってきた道は国道197号。そして大分県佐賀関に着いた先にも国道197号が続く。その間は海なので道路はないのだが、フェリー航路を挟んで同じ国道が続いているため、「海上国道197号」と呼ばれることがある。自転車を輪行袋に入れて船に乗っただけなのだが、気分としては国道197号をそのまま海の上まで走っているようで面白い。
フェリーのデッキに出ると、海の上を渡る風が気持ちよかった。さっきまで苦労して走っていた佐田岬半島の全貌が、海側から見える。あの山の上を走ってきたのかと思うと、我ながらよくやるなあと思う。船はゆっくり進み、こちらもようやく本当にのんびりできた。

【写真⑮ 挿入:IMG_6468.JPG|三崎港から佐賀関へ。海上国道197号をフェリーで渡り、デッキで海風に吹かれながら佐田岬半島を振り返る】
ついに九州上陸
佐賀関港に到着。四国から豊後水道を渡って、ついに九州、大分県へ上陸した。輪行袋から自転車を出して組み立てる。後ろに見えるのは、さっきまで乗ってきたフェリーだ。大阪から走り始め、兵庫、岡山、広島、しまなみ海道を渡って愛媛。そしてとうとう九州まで来た。一つ大きな区切りである。

【写真⑯ 挿入:IMG_6470.JPG|佐賀関港に到着。後ろには乗ってきたフェリー。自転車を組み立て、いよいよ九州編スタート】
道路へ出ると、「佐伯」「別府」「臼杵」「大分」といった地名が標識に現れる。こういう標識を見ると、本当に九州へ来たんだなと実感する。
【写真⑰ 挿入:IMG_6472.JPG|佐賀関から再スタート。「佐伯・別府・臼杵・大分」の標識を見て、九州上陸を実感】
港を離れると、大きなタンカーと造船所が見えた。海は同じように青いのだが、四国側とはまた違う港町の景色である。船で海を渡っただけなのに、土地の空気が少し変わったような気がした。

【写真⑱ 挿入:IMG_6474.JPG|佐賀関港を離れる。海の向こうには大きなタンカーと造船所が見えた】
別府で温泉? いや、男は前進だ
ここまで来た時点で、旅の目的はかなり達成したような気分になっていた。大分市や別府まで走って、温泉に入ってのんびりして終わりでもいいかなと思った。しかし地図を見る。南へ行けば臼杵、その先には佐伯、さらに宮崎がある。「やっぱり男は前進だよな」と、よく分からない理屈で進路を南へ取った。
佐賀関から先は国道217号。これがまた素晴らしい海岸線だった。しまなみ海道、愛媛の378号、佐田岬と、ここ数日ずっと美しい海ばかり見てきたのに、まだ飽きない。むしろ次にどんな海が現れるのか楽しみになってくる。

【写真⑲ 挿入:IMG_6478.JPG|九州上陸後は北ではなく南へ。国道217号を臼杵方面へ走ると、また美しい海岸線が続いた】
「臼杵」が近づいてきた
海岸沿いの小さな港を走っていると、バス停に「臼津交通」の文字が現れた。臼杵が近づいてきたことを感じる。大都市の案内標識より、こういう地元のバス停の名前のほうが、旅をしている時には妙にうれしかったりする。
【写真⑳ 挿入:IMG_6479.JPG|海沿いの小さな港に「臼津交通」のバス停。臼杵が近づいてきたことを感じる】

国道217号沿いには、いくつか小さな海水浴場もあった。穏やかで透明な海で、地元の人たちがのんびり泳いでいる。こちらは汗だくで自転車を漕いでいる。「いいなあ、僕も入りたいなあ」と思いながら通り過ぎる。

【写真㉑ 挿入:IMG_6481.JPG|国道217号の海岸線。穏やかな海と小さな海水浴場が続き、泳ぐ人たちがうらやましかった】
臼杵駅到着。子どもたちが親切だった
そして臼杵駅に到着した。初めての町なので駅の場所が少し分かりにくく、近くにいた子どもに道を聞くと、親切に教えてくれた。そして駅前の記念写真は、中学生くらいの子が撮ってくれた。素朴で、親切で、こういう子どもたちを見るだけでも「いい町だな」と思う。周辺には古い街並みも残っていて、観光客の姿もちらほら見えた。

【写真㉒ 挿入:IMG_6485.JPG|Day5のゴール、臼杵駅。近所の子どもに道を教えてもらい、中学生に撮ってもらった一枚】
最後は昭和の旅館へ
問題は宿だった。お盆の時期ということもあり、なかなか見つからない。ようやく取れたのが駅近くの古い旅館だった。入口だけを見ると普通の民家のようで、いかにも昭和の旅館という雰囲気である。しかし中はとても清潔で、気持ちよく過ごせた。

【写真㉓ 挿入:P8130224.JPG|臼杵駅近くでようやく見つけた昭和の旅館。民家のような入口だが、清潔で居心地のいい宿だった】
入口の横には洗濯機と物干し場があり、宿の方にお願いして、その日一日着て汗まみれになったジャージを洗濯させてもらった。翌日また同じものを着るので、洗って干す。これも長距離自転車旅の日常である。驚いたのは、8月のお盆時期なのに、夜はエアコンなしでも眠れたことだった。華やかなホテルではない。しかし、一日走り終えた体には、こういう静かで清潔な宿がいちばんありがたい。
Day5 伊予市→臼杵市 124.76km
この日の記録は、距離124.76km、走行時間6時間25分16秒、平均速度19.4km/h、獲得標高875m。朝は伊予の高台から瀬戸内海を眺めてスタートし、国道378号を走って八幡浜へ。当初ならそこでフェリーに乗るはずだった。それを予定変更して佐田岬半島へ進み、アップダウンに苦しみながら三崎港へ。そこで「夜まで自転車は乗せられない」と言われて青ざめ、輪行袋のおかげで何とかフェリーに乗り、海上国道197号で九州へ渡った。そして佐賀関からは「もう十分だろう」という気持ちを振り払い、さらに国道217号を南へ走って臼杵まで来た。
この日は、とにかく予定変更の連続だった。でも、自転車旅では予定通りにいかなかった日のほうが、あとでよく覚えていたりする。八幡浜でそのままフェリーに乗っていたら、佐田岬半島の絶景も、三崎港での騒動も、海上国道197号も知らなかった。そして別府で終わっていたら、国道217号の海も、臼杵の親切な子どもたちにも出会わなかった。
予定を変えて、もう少しだけ先へ行く。その繰り返しで、いつの間にか九州まで来た。
日本縦断ステージ3、Day5終了。いよいよ宮崎県が見えてきた。